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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)759号 判決

主文

原判決を破棄し本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人青柳孝、同青柳洋の上告理由第一点について。

所論引用の大審院判例(昭和八年二月七日判決)が、控訴審における民訴一三九条の適用について、第一審における訴訟手続の経過をも通観して時機に後れたるや否やを考うべきものであり、そして時機に後れた攻撃防御の方法であつても、当事者に故意又は重大な過失が存すること及びこれがため訴訟の完結を延滞せしめる結果を招来するものでなければ、右の攻撃防御の方法を同条により却下し得ない趣旨を判示していることは所論のとおりであつて、この解釈は現在もなお維持せらるべきものと認められる。

記録によつて調べてみると、所論の買取請求権行使は、原審第二回の口頭弁論において(第一回は控訴代理人の申請により延期)はじめて陳述されたものであるところ、上告人が第一審第一回口頭弁論において陳述した答弁書によれば、本件賃借権の譲渡について被上告人の承諾を得ないことを認め、右不承諾を以て権利らん用であると抗弁していることがうかがわれるから、すでに第一審において少くとも前記買取請求権行使に関する主張を提出することができたものと認めるのを相当とし、所論のように、上告人が第一審において当初の主張にのみ防御を集中したというだけの理由をもつて、上告人が第二審において始めてなした買取請求権行使に関する主張が、故意又は重大なる過失により時機に後れてなされた防御方法でないと断定することはできない。しかし時機に遅れた防御方法なるが故に上告人の右主張を却下するためには、その主張を審理するために具体的に訴訟の完結を遅延せしめる結果を招来する場合でなければならないこと前示のとおりであるところ、借地法第一〇条の規定による買取請求権の行使あるときは、これと同時に目的家屋の所有権は法律上当然に土地賃貸人に移転するものと解すべきであるから、原審の第二回口頭弁論期日(実質上の口頭弁論が行われた最初の期日)において、上告人が右買取請求権を行使すると同時に本件家屋所有権は被上告人に移転したものであり、この法律上当然に発生する効果は、前記買取請求権行使に関する主張が上告人の重大なる過失により時期に後れた防御方法として提出されたものであるからといつて、なんらその発生を妨げるものではなく、またこのため特段の証拠調をも要するものではないから、上告人の前記主張に基き本件家屋所有権移転の効果を認めるについて、訴訟の完結を遅延せしめる結果を招来するものとはいえない。従つて訴訟の完結を遅延せしめることを理由として、前記所有権移転の効果を無視し、なんらの判断をも与えずに判決することは許されないものといわなければならない。

以上のとおりであるから、右第二回口頭弁論期日において結審することなく第六回の口頭弁論期日において弁論を終結したこと記録上明らかな本件において前記上告人の主張を時機に後れた抗弁として排斥し、本件家屋所有権移転の効果を無視したものと認められる原判決は、民訴一三九条の解釈適用を誤つた違法があるを免れない。所論はこの点において理由があるから他の論点について判断するまでもなく、原判決を破棄し右の点につき更に審理をなさしめるため本件を原審に差戻すのを相当とする。

よつて民訴四〇七条により全裁判官一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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